「電話の相手が本物の警察官に見える」「ビデオ通話に出た人物が、実在する人物そっくりだった」――そんな時代が、すでに現実になっています。
2026年9月24日、AIを使った“成りすまし通話”を悪用する特殊詐欺の実態が報じられました。
海外の特殊詐欺拠点では、AIを使ってビデオ通話中の顔を別人のように見せる技術が使われていたとされています。
さらに、警察官や郵便関係者などを次々と登場させる「劇場型」の手口で、70代男性が1億円以上の被害に遭った事例も紹介されました。
「自分なら騙されない」と思っていても、相手が本物らしく見えるほど、判断は難しくなります。
今回は、AIを悪用した成りすまし通話とは何なのか、どんな流れで信用させるのか、そして私たちは何に注意すればいいのかを分かりやすく紹介します。
AIを使った「成りすまし通話」とは?
最近の特殊詐欺で問題になっているのが、電話だけではなくビデオ通話まで使った成りすましです。
これまでも警察官などを名乗る詐欺はありましたが、最近はビデオ通話を組み合わせることで、より「本物っぽく」見せようとするケースが確認されています。
AIで顔を別人のように見せるケースも
2026年9月24日に報じられた事例では、タイ・バンコクの特殊詐欺拠点からAIソフトが押収されました。
報道によると、そのソフトを使うと、ビデオ通話中の人物の顔をリアルタイムで別人のように変化させることが可能だったとされています。
つまり、スマートフォンやパソコンの画面に映っている人物を見ただけでは、「誰が実際に電話しているのか」を判断しにくくなるわけです。
また、過去には特殊詐欺グループが生成AIを使って、かけ子の顔や声を加工していたことも警察の捜査で判明しています。
「顔が見えたから安心」は危険
これまでは、
「電話だけなら怪しい」
「顔を見せてもらえば本物か分かる」
と考えることもできました。
ところが、AIによる映像加工などが使われると、「顔が見えた」というだけでは本人確認にならない可能性があります。
ここが、これまでの電話詐欺との大きな違いです。
実際にはどんな手口なの?
今回報じられた事例では、単純に「AIで顔を変えて電話する」だけではありません。
複数の人物を登場させ、もっともらしい話を積み重ねて相手を信じ込ませる「劇場型」の手口が使われていました。
最初は別の機関を名乗って接触
報道されたケースでは、まず日本郵便を名乗る人物から電話があり、荷物に他人名義のキャッシュカードなどが入っていると伝えられています。
その後、「警察に電話を転送する」という流れになり、今度は警察官を名乗る人物が登場。
さらにビデオ通話へ誘導し、身分証明書を見せるよう求めるなど、次々と話を展開していったとされています。
こうなると、電話を受けた側は「最初の話」と「次の話」がつながっているため、疑うタイミングを失いやすくなります。
本物らしい情報を組み合わせる
今回の事件では、詐欺グループ側から600人を超える日本人の個人情報が押収されたと報じられています。
氏名や住所、電話番号だけでなく、家族構成などが記載されていたケースもあったとのことです。
ここが非常に厄介なところ。
電話の相手が自分の名前や住所だけでなく、家族に関する情報まで知っていると、
「本当に警察が調べているのかもしれない」
と思ってしまう可能性があります。
しかし、相手が自分の個人情報を知っていることと、本物の警察官であることは別問題です。
「警察官だから安心」は通用しない?
今回のようなケースで特に注意したいのが、警察官を名乗る詐欺です。
警察庁も、電話やビデオ通話を利用して警察官や検察官を装い、金銭や個人情報をだまし取る手口について注意を呼びかけています。
警察が突然ビデオ通話してくることはない
警察庁は、警察官・検察官が突然スマートフォンにビデオ通話をすることはないと注意喚起しています。
「あなたの口座が犯罪に使われている」
「あなたに逮捕状が出ている」
「資金を確認する必要がある」
などと言われても、電話口で慌てて対応する必要はありません。
一度電話を切り、自分で調べた警察署の代表番号などに確認することが重要です。
「お金を移せ」は赤信号
警察庁は、警察官を名乗る人物から「資金調査」などを理由に送金を求められた場合は詐欺だと注意しています。
「安全な口座に移してください」
「捜査のために預けてください」
「潔白を証明するために必要です」
などと言われても、その場で送金してはいけません。
今回報じられた70代男性も、口座が狙われていると言われ、指示されるまま資産を移し、1億円以上の被害に遭ったとされています。
AI成りすまし通話を見破るには?
ここで重要なのは、「AIかどうかを見抜く技術」を身につけることだけではありません。
むしろ、AIを使っているかどうかに関係なく、詐欺の可能性がある状況から一度離れることが大切です。
その場で判断しない
突然、
「あなたは犯罪に関係している」
「口座を確認する」
「今すぐ対応しないと逮捕される」
などと言われたら、まず電話を切りましょう。
相手が急がせるほど、こちらは一度立ち止まることが重要です。
相手から教えられた番号に電話しない
詐欺だと疑ったとき、相手から教えられた電話番号に折り返すのも避けましょう。
警察庁は、警察官を名乗る相手から電話があった場合、相手側から教えられた番号には折り返さず、警察相談専用電話「#9110」などに相談するよう案内しています。
「本物か確認したい」という場合こそ、自分で正規の連絡先を調べることがポイントです。
ビデオ通話や警察手帳の映像だけで判断しない
警察庁は、犯人がビデオ通話で制服姿や警察手帳を見せ、本物の捜査員のように見せかける手口を確認しています。
そのため、
「制服を着ている」
「警察手帳を見せた」
「顔が見えている」
というだけで信用してはいけません。
今後はAIなどによる映像・音声加工の悪用も考えられるため、画面に映っている情報だけで本人確認を完了させないことが大切です。
特殊詐欺はどこまで増えている?
AIの悪用だけに注目すると「新しい詐欺が突然出てきた」という印象がありますが、背景には特殊詐欺そのものの深刻化があります。
警察庁によると、2025年の特殊詐欺の認知件数は2万7,832件、被害額は約1,423億1,000万円でした。
前年と比べて認知件数は32.3%、被害額は98.0%増えています。
特に「ニセ警察詐欺」は1万1,014件、被害額は1,005億円に上っています。
つまり、AIによる成りすましは単独の問題というより、増加しているニセ警察詐欺などに新しい技術が組み合わさっていると考えたほうが分かりやすいでしょう。
これからは「AIを見抜く」より「一度切る」が重要
AIによる画像や音声の加工技術は今後も進化する可能性があります。
そうなると、「映像が少し不自然だから怪しい」「声がおかしいから詐欺」といった見分け方だけでは対応しづらくなるかもしれません。
だからこそ大切なのが、本人確認の方法そのものを変えることです。
電話の相手が誰であっても、
「お金を要求された」
「個人情報を聞かれた」
「秘密にするよう言われた」
「今すぐ対応しろと言われた」
「ビデオ通話に誘導された」
といった場合は、いったん電話を切る。
そして、家族や警察、金融機関など、信頼できる別の窓口に確認する。
これだけでも、詐欺に巻き込まれるリスクを下げることにつながります。
まとめ
AIを悪用した「成りすまし通話」は、特殊詐欺の手口をさらに巧妙にする可能性があります。
これからは「顔が見えるから大丈夫」「声が本人に聞こえるから大丈夫」とは限りません。
もし電話で突然、犯罪への関与を指摘されたり、お金の移動を求められたりしたら、その場で対応しないこと。
電話を切り、自分で正しい連絡先を確認して相談する。
このひと手間が、AI時代の特殊詐欺から身を守るための基本になりそうです。
【出典】
・テレビ朝日「AI駆使し“成りすまし通話”特殊詐欺の手口」
・警察庁・SOS47「ビデオ通話を悪用した“偽警察官・検察官”の詐欺に注意!!」
・警察庁・SOS47「警察に偽装した電話番号に注意!」
・警察庁・SOS47「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」

